「エアコンの風キツいんだけど、どうにかなりませんか?」
青ざめた顔で女性社員が相談に来た事があります。
真夏のある日、刺さるような紫外線とセミの鳴き声から鉄の扉で隔離された東京のオフィスで、私が総務部をしていた時の話です。
「外回り熱血営業マン」VS「頼られ内勤女子」の仁義なきエアコン設定の戦いはどこの会社でも毎年恒例なものですが、良く見ると唇も血が通っておらず手が小刻みに震えています。
「ああ、我慢しちゃったんだな」と、私はすぐに思いました。
彼女は他人のことを気遣ってあまり自己主張しないタイプ。
何かを訴えてくるということはよっぽどのことです。
時計は10:17。あと30分で、急遽挙がった議題を11時からの役員会議の資料の中に入れなければいけません。
鳴りやまない電話。受付には宅急便屋さんが昨日発注した役員に持たせる手土産を、「代引きでーす」と持ってきてくれています。
私がパッと隣の総務ファシリティ担当者の顔をみると、同じ役員会議に提出する「複合機印刷枚数資料」を絶賛作成中で、鬼気迫る形相をしていました。
あと二人いる別の総務部員のうち一人は今日有給取得で、もう一人は今来客対応中。さてこの魔人たちとの戦争局面をどう乗り切ったものでしょう。
私は2秒考えて、鬼の形相総務部員に「複合機資料は、間に合わなかったら会議の途中で印刷して持ってきてくれれば良いから、経理にお金もらいにいって代引き対応してくれる?」
「そのあと落ち着くまで電話対応お願いします。」と言うと急に彼の表情は少しだけ緩みました。
そして1分後、次の具合が悪くなった女性を休ませるために空いている会議室の予約を取り、彼女に「仕事はいいからその会議室でしばらく休んでおいて。落ち着いたら私のところに来てください」
と言った後、すぐ彼女の部署のマネージャーに電話して状況を伝えました。
会議が終わってしばらく後、そっと仕事に戻ろうとする彼女を捕まえて「もう大丈夫なの?」と聞くと、
「はい、今は大丈夫なんですが、エアコンの風が直接体にあたってキツくて。」と彼女は答えました。
一旦ホッとしましたが、良く話を聞くと彼女の健康を害しているのはエアコンの温度設定ではなくあくまでも風らしいので、いったんエアコンの吹き出し口を彼女の所だけテープで蓋をしておいて、後日エアコンの風向きを変える安価な備品を購入しました。
「だいぶ良くなった。もしダメだったらまた相談する。」と言われましたが、そう言えばその後エアコンの風の件で彼女から相談が来る事はもうありませんでした。
エアコンの風対策に使った器具は こちら